「その仕事、あの人しかできない」——こう感じる業務が一つでもあると、その人が休んだり辞めたりした瞬間に業務が止まります。

沖縄の中小企業では、経理は◯◯さん一人だけ、受発注はベテラン任せ、という現場が少なくありません。離島出張や家庭の事情で長期不在になると、途端に困ってしまいます。

こうした「属人化(ぞくじんか)」は、担当者が悪いのではありません。忙しさや人手不足で、やり方を共有する時間が取れないだけです。この記事では、完璧なマニュアルを目指すのではなく「一番危ない1業務を、1枚から」始める方法をお伝えします。

沖縄の小さな事務所で、一人の年配の女性社員が書類とパソコンに向かって黙々と作業し、周りの席は空いている場面。窓の外にはヤシの木が見える

なぜ業務マニュアルが属人化対策になるのか

属人化とは、「特定の人しかできない業務がある状態」のことです。まずは、なぜこれがリスクになるのかを整理します。

「その人が休むと止まる」がリスク

一人しかできない業務があると、次のような場面で困ります。

  • その人が急に体調を崩して休んだとき
  • 家庭の事情や出張で長期間いないとき
  • 退職して、引き継ぐ相手がいないとき
  • 繁忙期に新人へ口頭で教える余裕がないとき

小さな会社ほど、一人が担う範囲が広く、影響も大きくなります。

マニュアルは「頭の中のやり方」を形にすること

業務マニュアルとは、むずかしく言えば手順書ですが、要するに**「その人の頭の中にあるやり方を、誰でも見られる形にしたもの」**です。

大切なのは、作ること自体が目的ではないという点です。ゴールは「その人が休んでも、他の人が見れば回ること」。ここを見失うと、立派だけど使われない資料ができてしまいます。

どの業務から作る? 優先順位の決め方

いきなり全部の業務を書こうとすると、量に圧倒されて手が止まります。まずは1業務だけに絞りましょう。

危ない業務を見つけるチェック項目

次の項目に多く当てはまる業務ほど、優先して作るべきです。

  • 担当が実質1人しかいない
  • 手順が本人の頭の中や口頭だけにある
  • その人が休むと業務が止まる
  • ミスが起きやすい、起きると影響が大きい
  • 毎日・毎月など、繰り返しの頻度が高い

たとえば「月末の請求書発行が◯◯さんしかできない」なら、これは最優先の候補です。

業務を一覧に書き出す

どれが危ないか判断するために、まず業務をざっと洗い出します。ノートや表計算ソフトで十分です。

業務名 頻度 担当 使うツール 承認する人
請求書発行 月次 ◯◯さん 会計ソフト 社長
給与計算 月次 ◯◯さん 表計算 社長
備品発注 随時 △△さん メール なし

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このように「日次・月次・年次」で分けて書くと、抜けが減ります。担当が一人に偏っている行が、そのまま危ない業務です。

使えるマニュアルの共通フォーマット

業務ごとに書き方がバラバラだと、読む人が混乱します。すべての業務で同じ型(フォーマット)に沿って書くことをおすすめします。

1業務あたりの型

次の項目を上から順に埋めるだけです。

  1. 目的:この業務は何のためにやるか(例:取引先へ請求するため)
  2. 対象者:誰が読む・誰がやる業務か
  3. 手順:番号付きで、一文は短く。主語は「作業する人」で書く
  4. 判断基準と例外:迷う場面のルール(例:金額が10万円を超えたら社長に確認)
  5. つまずきどころ:よくある間違いや注意点
  6. 更新日・更新した人:いつ、誰が直したか

「判断基準と例外」と「つまずきどころ」は、ベテランの頭の中にしかない知恵です。ここを書き出せると、マニュアルが一気に実用的になります。

わかりやすく書くコツ

  • 「です・ます」でやさしく書く
  • 専門用語は、その場でかみくだいて説明する
  • 画面の写真(スクリーンショット)を添える
  • 一つの手順に、一つの動作だけを書く

なお「マニュアル」と「手順書」はほぼ同じ意味で使われます。厳密に区別せず、まずは1枚書くことを優先してください。

ゼロ円で今日から始める手順

「専用のソフトを買わないと作れないのでは」と思うかもしれません。そんなことはありません。無料の道具だけで、今日から作れます。

使う道具

  • 文書作成:Google ドキュメント、または Word
  • 画面の記録:パソコンやスマホのスクリーンショット、画面録画
  • 共有:クラウドの共有フォルダ(Google ドライブなど)

Google ドキュメントは無料で使え、書いた内容が自動で保存されます。複数人で同時に見られるのも便利です。

作る流れ

一番おすすめなのは、実際の業務をやりながら記録する方法です。

  1. いつもの業務を、いつも通り始める
  2. 操作するたびに画面を撮る(スクリーンショット)
  3. 撮った画像をドキュメントに貼る
  4. 各画像の下に、一言だけ説明を添える
  5. 最後に目的・注意点・更新日を書き足す

思い出しながら書くより、やりながら撮るほうが早く、抜けも減ります。

沖縄の事務所で、若い社員がスマートフォンでパソコンの画面を撮影しながら、隣のベテラン社員に作業を教わっている場面

つまずきどころ

  • 撮り忘れ:作業を止めずに撮ろうとすると忘れがち。最初は「一操作したら一枚撮る」と決める
  • 画像が重い:写真が多いとファイルが開きにくくなる。不要な画像は削る
  • 個人情報の写り込み:顧客名やマイナンバーが画面に映らないよう注意する

有料の専用ツールは、社員が増えて管理が大変になってから検討すれば十分です。まずは無料の道具で1枚作ることを優先してください。

保管と共有:「どこにあるか分からない」を防ぐ

せっかく作っても、どこにあるか分からなければ使われません。作った後の置き場所を決めておきます。

置き場所は1か所に決める

マニュアルは、クラウドの共有フォルダなど1か所にまとめて置くのが基本です。個人のパソコンのデスクトップに置くと、その人しか見られず、また属人化してしまいます。

ファイルの名前にもルールを決めましょう。たとえば「業務名_更新日」の形にすると、探しやすくなります。

  • 請求書発行_2024-06
  • 給与計算_2024-06

ファイル整理の考え方は、探す時間をなくすファイル整理・命名ルールでもくわしく紹介しています。

全員に「ある」ことを知らせる

置き場所を決めても、存在を知らなければ意味がありません。次の場面で周知します。

  • 新人が入ったとき(研修で場所を教える)
  • 担当が変わるとき
  • 定期的な全体確認のとき

「困ったら、まずあのフォルダを見る」という習慣をつくることが目標です。

作って終わりにしない更新の仕組み

マニュアルが形だけになる一番の原因は、更新のルールが無いことです。業務は少しずつ変わるので、放っておくと内容が古くなり、誰も見なくなります。

更新のルールを決める

更新は、次の二つを組み合わせると回りやすくなります。

  • 定期更新:あくまで目安ですが、たとえば3か月に1回、内容を見直す日を決める
  • 随時更新:業務のやり方が変わったら、その場で直す

そして「いつ・誰が直したか」を、マニュアルの最後に必ず記録します。これがあると、内容が最新かどうかを判断できます。

更新の担当も一人にしない

ここで気をつけたいのが、更新作業そのものが属人化してしまうことです。「更新は◯◯さんだけ」だと、また同じ問題が起きます。

  • 気づいた人が直せるルールにする
  • 定期見直しは、担当を数人で持ち回りにする

こうして、更新まで含めて「みんなで回す」形をつくります。

まとめ:一番危ない1業務を、1枚から

業務マニュアルは、完璧を目指すと必ず途中で止まります。大切なのは、まず一歩を踏み出すことです。

  • 属人化は担当者のせいではなく、共有する時間が取れない仕組みの問題
  • 全部を一度に作らず、一番危ないと感じる1業務から始める
  • 無料のドキュメントとスクリーンショットで、今日から作れる
  • 置き場所を1か所に決め、更新のルールと記録を残す

目的は、立派な資料をつくることではありません。「その人が休んでも、業務が回ること」です。まずは頭に浮かんだ一つの業務を、1枚のドキュメントから書き始めてみてください。

業務の進め方全体を見直したい場合は、業務効率化は何から始める?進め方の基本もあわせてご覧ください。